台東区、墨田区の訪問看護はとら訪問看護にお任せください!

BLOG

2023年07月07日 [台東区 訪問看護]

トレードオフの関係 〜スポーツ選手の走り方、財務における意思決定

 「世界が終わるとき、最後の晩餐に食べたいものは何?」。最近、お客様との会話で出てきた質問です。自分の幼少期からよくある質問ながら、未だに正解が変動する質問です。

 これは、切り口によっては、医療福祉業界において以前の私の記事に取り上げた“QOL”の問題であり、経済学的には胃袋の許容量を予算制約線とした“無差別曲線”です。日本料理を食べたいが、カレーライスも少しは食べたい。どちらかと摂取しすぎると、どちらかが食べられなくなる、所謂、「トレードオフ」の関係です。ベンジャミン・フランクリンの“Time is money”、「時間の使い方によって機会損失が生じる」という格言でご存じの方も多いかと思います。
 意思を持つものすべて、トレードオフの関係から意思決定して生きています。そしてこのとき、「効用、満足度」又は「現在価値」の高い方を選択し、場合によってはデシジョンツリーを作成して真剣に悩んだ末に、機会費用を超えた満足度を得たときに、その選択が最適解と感じるわけです。

 このトレードオフの関係は、この世の事象のあらゆる場面で見られます。
 例えば、「伊東純也選手」と「周東佑京選手」の走り方(五十音順)。
 両選手とも誰もが知るところの日本を代表する著明なスポーツ選手で、伊東純也選手は、”イナズマ純也“の愛称を持つプロサッカー選手で、電光石火の速さを誇ります。そして、周東佑京選手は、侍ジャパンでもお馴染み、ソフトバンク球団所属で球界を代表する盗塁王です。
 走り方の特徴は、一リハビリ職の私見ですが、伊東選手については、➀ピッチ走法のように接地頻度が高く、A股関節、足関節戦略機能を活かすべく重心を落とし、B選手同士の接触に負けないためワイドベース(前から見て足を軽く開く)で、C下肢筋力への負担軽減、および、ブレーキの抑制のため、股関節-足関節が鉛直線上に近いタイミングで接地する。その結果が、咄嗟の状況変化に対応でき、一気にトップスピードで敵を置き去りにし、かつ、怪我も少なく、90分間の戦いに対しエネルギー配分しやすい走り方、といった印象です。
 一方、周東選手については、➀ストライド走法のように接地時間が短く、A床反力を活かすべくつま先で接地し、B上半身の位置エネルギーを運動エネルギーに変換すべく頭を落としており(特に走り出し)、その結果が、上半身重心と下半身重心の秀逸なコントロールによって、走り始めだけでなく塁間走行からスライディングした後までスピードを落とさないような、短距離選手とは少し違う姿勢で、須臾の時間を直線的に走り抜けることに特化した走り方、といった印象です。
 ここで、あらゆるスポーツにおいて「走る」という行為は、高速、かつ、外力に対し安定し、それでいて状況判断によって方向転換できる、といった要素すべてがそろえば理想的ですが、両選手のフォームは両立しづらく、高速すなわち”運動性“と、“安定感および対応力”は、どちらかを優先すればどちらかが犠牲になる、相容れない関係、まさにトレードオフ関係です。(赤ちゃんがハイハイから二足歩行へ移行するときをイメージするとわかりやすいと思います。安定して転倒リスクの少ない姿勢から、安定性を犠牲にしても運動性の向上する歩行姿勢への変化です。)
 効用という観点からは、サッカーでは、“周囲の状況に合わせた瞬時の対応力、および、他選手のアタックに対する安定感”に価値があり、一方、野球の盗塁では、“できるだけ速く、直線的に塁間を走ること”に価値があり、各選手とも一試合・長期戦線におけるスタミナや見えないポテンシャルを予算制約線として考慮しながら、“競技特性にあった走り方”という意思決定をされたと思います。(各選手ともに神レベルのため、私の素人目には機会損失が生じているようにも感じませんが。)

 なお、”運動性”と“安定性”のトレードオフについては、当業界でもよく検討されるもので、「安定・安全の車いす生活」を選ぶか、「活動範囲に制約のない自由自在な歩行」を選ぶか、と同様です。前者は、受傷リスクは少ないものの、段差や地面の凹凸で制限され、また、廃用性の運動機能低下リスク等が予測され、一方で後者は、買い物や旅行など好き勝手に移動できるものの、転倒リスクがあります。この場合、希望や主訴、認知精神機能や運動機能、ご家族様の意向、予後予測などで最大効用であるQOLを検討しますが、詳細は以前の記事まで。

 他には、経営における他人資本を利用した投資活動の意思決定にもあてはまります。
 会社は資本を元手に事業をし利益を生み出すことで、社会全体の利益に貢献して存続していくものですが、元手の資本として、よほど自己資本が頑強でない限り“他人資本”を活用して投資活動をすることがほとんどです。いわば、他人資本すなわち負債を利用するわけですが、負債が増えれば自己資本比率が低下し、安定性は低下します。しかし一方では、デュポン分析上、財務レバレッジ効果により自己資本利益率(ROE)は向上します(総資産利益率ROA>負債利子率の条件下)。そこで、内部・外部環境により投資案の現在価値を測り、活発な投資活動をしていくこととなります。ここでも、“安全性”と“収益性、効率性”とのトレードオフの関係が見られます。(実際は、案のミックスを検討するものと思いますが。)

 以上のように様々な場面でこのような意思決定は見られますが、その際に重要なことは、置かれた環境、予測した環境の中で、効用最大化となる最適解を選択し目的を達成すること。少しでもコンパティビリティ(両立性)が得られないのであれば、より慎重に精査する必要があります。

 ちなみに冒頭の質問に対する私の答えは、“妻のお正月に作るお雑煮”です。なお、現時点で一択なのでトレードオフは生じません。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

(文:PT柳田)

PageTop